はじめに
2022年春、私は右脚のアキレス腱を断裂しました。
20数年ぶりに体操競技に復帰して2ヶ月あまり──跳馬でロイター板(踏切板)を踏み込んだその瞬間、「バチン」という音とともに脚に激しい違和感が走りました。
あの日は3月、少しずつ暖かくなり始めた頃でしたが、朝の体育館はまだ気温が低く、筋肉や腱の温まりも不十分だったと思います。思えばウォーミングアップやストレッチをもう少し入念に行っていれば──そんな悔しさが、今も心の奥に残っています。
私は手術を選ばず、保存療法により回復を目指しました。ギプス、松葉杖、装具、そして地道なリハビリ。少しずつ負荷をかけながら、ようやく現場復帰できたとき、私の中では「ストレッチ」の意味が大きく変わっていました。
本記事では、アキレス腱断裂の予防・リハビリ中のケア・回復後の再断裂防止という3つの観点から、ストレッチとの正しい付き合い方をご紹介します。
1. アキレス腱断裂を防ぐ「予防ストレッチ」とは?
予防のカギは“柔軟性と血流”
アキレス腱の断裂は、ジャンプ動作やダッシュの瞬間など、強い負荷が突然かかることで起こります。特に運動不足や加齢で腱の柔軟性が低下していると、リスクは高まります。
効果的な予防ストレッチ例
- ふくらはぎのストレッチ(壁押し)
壁に手をついて片足を後ろに引き、かかとを床に押しつける。アキレス腱からヒラメ筋、腓腹筋までじんわり伸ばします。 - 足首の回旋運動
座った状態で足首をゆっくり大きく回す。関節の可動性を高め、冷えや張りの予防に。 - 軽いジャンプやつま先立ち(運動前のウォームアップ)
腱に軽い刺激を入れておくことで、衝撃への耐性が高まります。
🧠 ポイント:ストレッチは運動前後で目的が異なります。
ウォームアップでは「動的ストレッチ(反復動作)」を、運動後のケアには「静的ストレッチ(10〜20秒の保持)」を使い分けましょう。
2. 断裂後の「リハビリ期ストレッチ」は慎重に
保存療法中は“やらない勇気”も必要
私自身、保存療法での回復を選んだため、初期はストレッチを完全に控える必要がありました。むやみに腱を伸ばすと、再断裂や癒着のリスクが高まるからです。
医師・理学療法士の指示に従う段階的なアプローチ
- 初期(非荷重期):患部は極力動かさず、安静重視。ふくらはぎのストレッチは禁止。
- 部分荷重〜全荷重期:足関節の可動域回復を目的に、背屈ストレッチなど軽微な動作から再開。
- 後期(筋力回復期):両足ジャンプや片脚立ちなど、テンションを与える動作へ移行。
🚧 リハビリ中最大の敵は「焦りと恐怖」です。
「怖いからやらない」のではなく、「段階を守って進める」。これが再断裂を防ぐ唯一の道です。
3. 回復後の「再断裂予防」に役立つストレッチ習慣
“元どおり”ではなく“再構築”が目標
断裂したアキレス腱は、回復しても繊維の質が完全に元に戻るわけではありません。だからこそ、回復後のケアは「維持」ではなく「再構築」の意識が必要です。
意識すべき3つのアプローチ
- ふくらはぎの柔軟性維持
毎日の静的ストレッチ(起床後・就寝前・運動前後)を習慣に。 - 筋力と反応速度のトレーニング
片脚カーフレイズ、ジャンプ動作、バランスディスク上での姿勢保持など。 - 体幹と股関節の連動性強化
足だけに頼らず、全身で受け止める動き方を養う。ピラティスやヨガも有効です。
💬 私自身、競技復帰できた背景には、地道なストレッチと補強トレーニングの積み重ねがありました。
「怖さ」との向き合い方も含めて、丁寧に体と対話していく姿勢が何より大切です。
まとめ:断裂の経験が「自分の体への敬意」を育ててくれる
- アキレス腱断裂は、ふくらはぎや足首の柔軟性と血流次第で予防可能
- 断裂直後は「やらない」ことが治癒につながる
焦らず、段階的にストレッチを再開すべき - 回復後は「もう大丈夫」ではなく、「これからを守る」ストレッチと習慣づくりが大切
- ストレッチは「柔らかくなるため」だけでなく、**「再発を防ぐため」「自分をいたわるため」**にもある
私にとってアキレス腱断裂は、身体と本気で向き合う転機でした。
ストレッチは、単なる準備運動ではなく、“再発防止”と“信頼の回復”のツールです。
ご自身が同じ経験をしている方も、これから怪我のない体づくりを目指したい方も、どうか焦らず、丁寧に、自分の体に耳を傾けてください。
ストレッチは「攻める」ためだけでなく、「守る」ための大切な習慣です。


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